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白濁(六十五)

by 野原海明

「いざ離婚届ちゃんと出したら、すっげー気が抜けちゃって。さっさとけりつけてすっきりしたいって思ってたの、俺のほうなのにさ。バカみたいね」

 鼻をすすりながら高橋は笑った。

「ほんと、ありがとう。もう鎌倉には来ない」

 改札の前で高橋は右手を差し出した。その手をとって握手する。まるで友達みたいに。

 そうだ、友達になれたらよかったのに。

「それじゃ、彼氏さんと仲良くね」

「うん。さよなら」

 高橋は手を振ると、足早に改札を抜けて行った。

 たぶんもう、会うことはないんだろう。

 こんな日には日の高いうちから酔い潰れてしまいたい。でもそうして、第二や第三の高橋やタケシさんを増やしてどうすると言うのだろう。酔っ払って、酔った勢いで寝て、相性が良かったにしろ悪かったにしろ、結局友達にも恋人にもなれないんだ。

 タケシさんからまたどうでもいいLINEが届いていた。「今日の昼メシ」とか。なんだよ、飯テロかよ。

 ああ、お腹空いたなぁ。

 とりあえず、何か美味しいものでも食べよう。

 今晩もタケシさんはやってきて、また二人で呑んで、くだらないことを離して笑って、時間を惜しむように慌ただしく寝るんだろう。いつかどちらかが飽きて、終わってしまう日まで、何度も同じように繰り返して。

「君には他人に感情があるってことあがわからないのか」

 不意に坂井の言葉が耳元で聞こえた気がした。わからない。だって、私にも感情があるのか、よくわからないんだ。例えば、見た目や体以外に、人を好きになるっていうことだとか。

 日々は薄く、白く濁っている。痛みも愛情も薄く、そして遠い。

 いつかそんな日は終わるんだろうか。もう少し年をとったら? 体の欲望だけに流されなくなったら?

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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