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白濁(六十四)

by 野原海明

「もういいの? 江ノ電とか、大仏とかは?」

「うん、もう充分」

 あんまりあっけなかったので訊いてしまった。高橋と並んで歩くのが心地よくなってきていた。誰かと何の目的もなくただ一緒に歩くのはどのくらいぶりだろう。坂井とは部屋で会うだけになっていたし、タケシさんとは呑み屋で待ち合わせて慌ただしく寝るだけだし。

「俺、ただ、こういうのがしたかったみたい」

 高橋は言った。

「結衣さんも、本当はそうでしょ?」

 いたずらっぽい口調なのに、こっちに向けた顔は、少し困ったように眉を寄せた笑顔だった。

「それはどうかなぁ」

 認めるのは悔しくてはぐらかした。

「俺さ、ついに籍、抜いたんだ」

「それは……離婚したってこと?」

「そう」

「っていうか、結婚してたんだ。とっくに別れたのかと思ってた」

 Facebookのプロフィールページで見た「独身」というステータスを思い出していた。

「ずっと別居はしてたんだけど、昨日、ようやく」

 鳥居の前の信号が変わるのを待つ。若宮大路は、八幡宮を目指して来た人でごった返している。

「なんかうまくいかないもんだよね。ずっと愛していけると思ったから結婚したんだけど」

 信号が変わる。人の波がどっと行き交う。私たちもそのひとつの流れになって足早に渡る。

「ただ一緒に飯を食ってさ、笑い合って、子ども育てて、ずっとそんなふうにやっていけると思ってたんだけど」

 まっすぐ前を向いて歩く高橋の目は潤んでいた。

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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