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白濁(六十三)

by 野原海明

「あ!」

 信号を待つ人たちが指さし歓声を上げる。鳥居に並んだ白い鳩の群れが一斉に飛び立ったのだ。拍手している人までいる。

 ざわざわと粒のように連なる白い群れ。そのすがすがしさとは裏腹に、私は喉の奥に引っかかる苦みを思い起こしていた。幾億もの白い群れ。まだ生きているのに、あっけなく消化される。新しい命を宿すこともない、ティッシュにくるまれて捨てられるタンパク質。

「撮れた?」

 カメラを構えたままの高橋に訊く。

「どうかなぁ」

 気のない返事をして、撮った写真を見返していた。

 信号が変わった。参拝客が一斉に渡る。人の多さに対して、八幡さまの前の信号はとても短い。あっという間に点滅する。

 高い秋空の遠くに、白い点々が渦を巻いている。何度も同じ場所を旋回する。

「おれ、あんな真っ白な鳩の群れ、結婚式以外で初めて見た。野生かなぁ」

「違うんじゃない?」

 鎌倉は鳩の多い町だけれど、あんな真っ白いのは珍しい。

「いやー、なんかすっきりした」

 そう言って高橋は砂利道で大きく伸びをした。

 当たり前のカップルみたいに並んで階段を昇り、本殿に参拝する。お社を出ると、眼下に鎌倉の町が広がっている。見慣れた町並みも、高いところから見ると全然違って見える。きっとこれが神様の目線なんだろう。

「真ん中には立ち止まらないでくださいね」

 そんなことを考えていたら、警備員のおじさんに注意されてしまった。慌てて端にのいて階段を降りる。

「ありがとう。これでもう、満足」

 階段を下りながら高橋が言った。まだお昼にもなっていなかった。

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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