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白濁(六十二)

by 野原海明

「昼間の町を一緒に歩いて欲しいんだ。なんでもなく、普通に」

「それだけ?」

「それだけ」

 高橋は自分のシャツの袖をつまんで言った。

「あ、でも俺、なんか汚れてる?」

 高橋の白いシャツには、昨日座り込んでいたときについた砂の痕が背中に残っていた。

「ごめん、こんなやつと歩きたくないよね」

「いいけど、別に」

 高橋はちょっと泣きそうな顔で、

「ありがとう」

 と言った。

「高橋さん、泣き上戸?」

 まずは王道の鶴岡八幡宮に行こうと、若宮大路を歩く。工事が終わったばかりの段葛には、ひょろひょろとした枝の桜が並んでいる。台風の塩害ですっかり葉っぱが落ちてしまっていた。今年は紅葉はあんまり望めないだろう。

「うーん、涙もろいとは、よく言われるけど」

「涙もろいなんてもんじゃなかったよ」

「まあ、ちょっと、いろいろとね」

 済ました顔をしている。ときどき立ち止まってシャッターを切る。そのファインダーには何が写っているんだろう。観光客とはおおよそ違う方向ばかりを向いている。

「撮ってもいい?」

 カメラを構えたまま振り返る。

「嫌だ。私、写真苦手」

「ふーん」

 お構いなしにシャッターを切る。

「ちょっと、やめてよ」

「すぐ慣れるよ。気にしないで、普通にしてて」

 そんなこと言われても、気になるものは気になるのだ。鳥居の上には真っ白い鳩が一列に並んでとまっていた。

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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