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白濁(六十)

by 野原海明

 ポケットの中で携帯が震えていた。タケシさんからだ。どうにか高橋の靴を脱がせ、畳の上に横たわらせて、かけ直す。電話に出たタケシさんは、

「大丈夫? お腹」

 と言った。マスターが適当に嘘をついておいてくれたんだろう。

「うーん、なんとか」

「どこにいる? トイレ?」

 時計を見る。もうすぐ、タケシさんが乗る終電の時間だった。

「そう。でも大丈夫だから、先に帰ってて」

「ついてようか」

「トイレに? いやだ、恥ずかしい」

 それもそうか、と言って電話の向こうでタケシさんは笑い声を漏らした。

「それじゃあ、先帰るわ。でも、本当にやばかったら電話すんだよ、すぐ戻るから」

「うん、ありがとう」

 電話を切ると、高橋が薄目を開けてこちらを見ていた。

「……彼氏?」

 かすれた声で言う。

「……というか、なんというか」

 と曖昧に答える。

「ごめん、俺、すげー酔っ払ってるみたい」

「うん、見ればわかる」

 高橋はもう寝息を立てていた。その首からかかっているカメラを外してやる。

 興味本位で、電源を入れた。保存されている写真をめくる。個展で見たような、無機質な写真。何かの錆、壁、コンクリート、鉄。黒っぽい画像が続く。

 パッと、画面が白くなる。白くなったように見えたのは、あんまり暗い写真ばかりがその前に並んでいたからだ。

 白いのは、私の体だった。

 太股、腰、お尻の丸み、乳房、湿った陰毛、頬、少し開いた唇、閉じた目、指先。

 眠りこけた私を、隅から隅まで。

(つづく)

 

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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