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白濁(五十二)

by 野原海明

「結衣ちゃん、ほんとうにタケシさんと付き合ってるんだね」

 カウンターで隣合わせたアカリさんが、煙草をくゆらせながら言った。いつものように夏の雪を呑んでいた。

 私はなんて答えたらいいかわからなくて黙っていた。待ち合わせをしているタケシさんは、仕事が長引いているようだった。

「冗談だと思ったのに、ほんとだったんだ」

 アカリさんはそう言った後、煙を豪快にとがらせた口から吹いた。白い靄みたいに。

「なんであんなオジサンなわけ? もっと若い、おんなじくらいの歳の子と付き合えばいいじゃん」

 今日はちょっと棘があるな、と思った。アカリさんは私が答えなくても関係なく話し続ける。

「だって妻子持ちなんでしょ? 絶対良くないよ。泣かされるね。あいつ、見た目以上に悪いやつだよ、絶対」

 もっきりのグラスに一口残った日本酒をすいっと呑み干して、私は言った。

「それでも私ほど、悪いやつじゃないと思います」

「は?」

 アカリさんはもともと大きな目をもっとまん丸にしてこちらを見た。私はそれ以上は答えずに、マスターにお代わりを注文する。

「ごめんなさい。もうそういうの、できそうにない。家にも上がらないでほしい」

 ようやく坂井に返事を書いた。

「男と住んでるのか」

 短い返事が返ってきた。そう思っているなら、そう思わせておけばいい。

 二人きりで会うのは怖い。できれば、誰か知っている人がいる店がいい。でも飲み屋じゃだめだ。お酒が入ったら逆上してしまうかもしれない。

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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