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白濁(三十六)

by 野原海明

 触れ合ったところから感じる体温に、体の表面が溶けて滲み出ていきそうな気がした。

 それは、タケシさんに? それとも見知らぬ隣の男に?

 もうどっちだっていい気がした。

 カウンターの奥で、アカリさんと呼ばれた女が身を乗り出す。

「マスター、アタシ『夏の雪』もう一杯」

「なつのゆき?」

 思わず声に出して繰り返した。

「おねえさん、知らないの?」

 左隣の男が体をこちら側にねじるように向けて言った。もう秋風も冷たくなり始めているのに、半袖のアロハシャツを着ている。

「夏の雪。この店唯一のカクテル」

「何が入ってるんですか?」

「さあ。自分で頼んでみたら?」

「あの、マスター、私も『夏の雪』を」

「あいよ」

 マスターは無表情にもう一つのグラスを取り出して並べた。氷に、キンミヤ焼酎。赤い日の丸のラベルは、赤玉ポートワイン? 撹拌させると、その上からマッコリを静かに注いだ。赤く澄んだ酒の上に、白い濁りが雲のように降り積もる。マドラーを入れたままで、「おまち」と言われて差し出された冷たいグラスを受け取った。

「すごい、三種のちゃんぽん」

「でもね、呑みやすいのよ」

 遠くから女が言った。

「いわゆる、レディーキラー? こんな場末の立ち呑みに、似合わないけどねえ」

「夏の雪っていう、名前がいいですね」

「ああ、それね、常連の一人がつけたんだよ。最初、目も当てられない名前だったからさ」

 アロハの男が言った。

「え、なんて名前だったんですか」

「酒の名前、並べてみなよ」

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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