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白濁(三十五)

by 野原海明

「あっ。えっと、日本酒を……常温で」

「あいよ」

 もっきりで出てきたグラスには、受け皿からもこぼれそうなくらいなみなみと酒が注がれていた。

「さっきも日本酒、結構呑んでましたよね? 知りませんよ、また倒れても」

 タケシさんが言った。

「いいんです。そしたらまた、タケシさんに送ってもらうから」

 口からグラスを迎えにいって、ずずっと吸った。

「へえー、やるう。そういう関係なんだぁ」

 赤いマニキュアの女がタバコをくゆらしながらニタニタと笑った。

「それだったら、お隣、どーぞ。アタシはあっちであいつらと呑むから」

「悪いね、アカリさん」

 女は片手をひらひらさせると、トマ酎のグラスをつかみ、満員のお客の間と間を縫って、反対側の角まで移動していった。

「どうしたんですか」

 タケシさんは小声で言った。ちょっとつっかかるような言い方だった。

「タケシさんが行きそうな店、ここかなーって」

「酔ってるんですか」

「そりゃあ、酔ってますよお」

 喧噪で、他の人たちの会話はよく聞こえない。こないだ程じゃないにしろ、確かに酔っていた。

「しょうがないな。それ呑んだら、ちゃんと帰るんですよ」

「はーい」

 始めて入った店なのに、密集した感じが居心地良くて、私はその雰囲気にも酔っていたのかもしれない。ぎゅうぎゅうの店内で、右隣のタケシさんの腿や、左隣の実知らぬ男性の背中が、ずっと体のどこかに触れていたのに気持ち悪くもならなかった。

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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