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白濁(三十四)

by 野原海明

 家に帰る。

 レジ袋の中から六本入りの缶ビールを取り出して、冷蔵庫の隙間に無理やり詰め込む。一本はそのまま、プルタブを開けた。台所の床にへたり込んだまま、ぬるいビールを喉に流す。

 ふと、携帯を手に取る。

 わかってはいたけれど、坂井からのメールは来ていなかった。

 衝動的に、もう一度靴を履く。ハンドバッグに携帯と財布と鍵だけを入れて部屋を出る。

 小町通りにも立ち飲み屋が出来たのは知っていた。いつもの店で、常連さんたちがそんな話をしていたから。

 店は、ぼろぼろのビルの、これまた今にも崩れ落ちそうな階段を昇った二階にあった。縄暖簾の隙間から中の様子をうかがった。狭い店内に、満員電車みたいにお客さんが詰まっていた。

「何人?」

 暖簾の中から声を掛けられる。グラスに口を付けていたから、店員じゃなくてお客なんだろう。

「ひとりです」

「大丈夫だよ、どうぞ。ほら、みんなちょっと入れてやって」

 満員電車状態の中に、わずかに一人分の隙間ができた。

「らっしゃい」

「あ、メニュー、あっちね」

 今度は違うお客が教えてくれる。

「あれ?」

 聞き慣れた声が言った。

「タケシさん、知り合い?」

 隣で呑んでいた女が言う。真っ赤なマニキュアに、赤く濁ったグラス。あれはきっと、トマト酎だ。

「うん、まあ、そう」

「ええー、こんな若い子とどこで知り合うの? 隅に置けなーい」

 タバコの煙を吐き出しながら言った。

「ご注文は?」

 カウンターの中で店主が不機嫌そうな顔をして言った。

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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