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白濁(四十三)

by 野原海明

 毎日のように、どこかの飲み屋で待ち合わせては、わざと店を出る時間をずらし、終電まで私の部屋で性急に体を重ねて帰る。タケシさんは、いろんな店で「最近よく会うね」と常連たちに言われている。

 最初の一回のような感動は無かった。慌ただしい逢瀬は激しくも単調だった。でもその、ただ裸になって抱き合うという単調な繰り返しが、得難いものに思えて涙が出てくるのだ。する前にAVを見ることも、過激な下着やストッキングを身につけることも、事後に玩具を洗う虚しさも必要なく、ただ単純に皮膚の手触りや体温を感じる。それだけを欲していた自分を初めて知った。

 彼の奥さんに嫉妬はしても、それは坂井に対して感じたような恋愛感情ではなかった。憧れも好感もない。ましてやタイプなんかではない。目の前にいるのは、どこにでもいるような中年のサラリーマンなのだから。ただ、全身の皮膚が、彼の肌を求めていた。自分の外殻が融けてなくなるような一体感を。離れている間は、自分の体の一部がもぎ取られてしまったように感じた。不完全であることへの不安。

 何度目かの待ち合わせで、あまり知り合いのこない三階の飲み屋のカウンターに並んで座り、タケシさんは「一緒に生きていたい」と独り言のように言った。それが恋人として普通に付き合うことでも、さらには今の家庭を捨て再婚することでもないことを私は知っていた。そのどちらもいらないと、私も思っていたのだから。

 タケシさんが離婚をすることはたぶんないだろう。

 私は?

 あれほど焦がれていた坂井のことを、罪悪感を持ってしか思い出さなくなっていた。そればかりか、もう一度会うことに嫌悪さえ感じていた。このまま連絡が途絶えてしまえばいいと思っていた。

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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