LOG IN

白濁(四十一)

by 野原海明

 暗い夜の中に部屋の壁も窓も何もかも、境目という境目は全部消え去って、夜空の星が頭上にも体の下にも広がっている。そのなかにタケシさんの体の形をした熱があって、私の体の片面はその熱を感じ続けたまま、果てしない夜のなかに浮いているのだ。

 そんなふうに、誰かと抱き合ったことはなかった。私は彼のものをこすったり咥えたりする必要はなく、窮屈なストッキングやハイヒールを履く必要もなく、ただ何一つ纏わず、体の力を抜いているだけでいいのだ。

 体の僅かな震えから、タケシさんも同じような果てを感じているのがわかった。激しさも何もなく、ただ体を重ねたまま、時間の感覚もなく、どこまでもどこまでも広がっていく。

 結局どちらも達することはなく、体を離すとまた部屋には壁と窓が現れ、外灯に負けないくらい明るい月が部屋を照らしていた。タケシさんはシャワーも浴びず、濡れた体を拭いもせず、身支度を整えた。

「このまま、匂いを感じながら帰りたいから」

 と

 私は裸のまま、上半身だけを起こしてタケシさんを見送った。随分と長い時間が経った気がしていたけれど、時計を見れば終電までにはまだまだ早かった。

 私もシャワーは浴びず、掛け布団を引っ張り出してくるまって、そのまま畳の上に寝転んだ。今更ながら、鼓動が激しいのに気がついた。体中に、ちょっと加齢臭っぽいタケシさんの体臭が染みついていた。明日朝起きて、それをシャワーで洗い流してしまうのが勿体ないと思った。ずっと染みついたまま、落ちなければいいのに。

 結婚生活を二十年も続けている人はみんなそうなんだろうか。どこまでも静かで、でもねっとりと熱く、全て身を任せるままのセックスが出来るものなんだろうか。

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

OTHER SNAPS