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白濁(三十八)

by 野原海明

 鮪の血合スモーク、自家製豆腐、ポテトサラダ、自家製塩辛……ポテトサラダを注文した。薄く切った、皮付きのリンゴが入っているやつ。それが嫌いという人もいるけれど、ポテトの中でときどきシャキシャキとする、その食感が私は好きだ。

「おねえさん、ほんとはそんな甘い酒よりも、ガツンとしたのが好きなんじゃないか?」

 アロハの男が身を丸めて私の顔をのぞきこんでいた。

「隣も立ち飲み屋でさあ、ハイボールが旨いんだよ。それ呑み終わったらサ、案内するから」

「あ、悪い」

 ずっと黙っていたタケシさんが言った。

「その子、俺が送ってくから」

 顔を出したばかりの満月が若宮大路を照らしていた。そうだ、中秋の名月か。

「今日はタクシーじゃないですけどね」

 隣をタケシさんが歩いている。

 タケシさん?

 誰だったっけ。どうして私は、男の人と歩いているんだっけ。

「まっすぐ歩いてくださいね」

「歩いてますよ、うるさいなぁ」

「あー、はいはい」

 よろめく私の手を取って、ぎゅっと握った。愚図る子どもの手を引くように。

 手。

 酒井と手をつないで歩いたことなんてなかったなぁ。

 人目があるところで、そういう恋人っぽいことをするのを坂井は嫌がった。考えてみれば、並んで歩いたことさえないかもしれない。いつもすたすたと先を歩く酒井の後を、必死で追いかけていた。慣れないハイヒールで。

 今も私は、ただ追いかけているだけなのかもしれない。

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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