LOG IN

白濁(三十一)

by 野原海明

 ほんの数軒となりなのに、いつも行く店とはまったく顔ぶれが違っていた。椅子のあるせいか、こちらは年配客が多い。呑みに来た、というよりは、夕飯を外に食べに来た、お年寄りのお一人様が目立った。バラエティを流しているテレビばかりがにぎやかだ。

「タケシさん、とおっしゃるんですよね?」

 熱燗のお猪口と、黒ホッピーセットのグラスとでちぐはぐとした乾杯をした後、そう尋ねた。

「あれ、僕、名前言いましたっけ」

「バッグを持ってきてくれた人が、そう呼んでましたから」

「へえ、よく覚えてましたね」

 アテは照り焼きの魚と小鉢で、これにご飯と味噌汁があればそのまま定食になりそうだ。「これがわりとね、地味で旨いんですよ」と言って注文しておきながら、タケシさんはあまり箸をつけない。ホッピーの嵩ばかりが、ぐいぐいと減っていく。左手の指には、年季が入っていそうな指輪が鈍く光っていた。

「だめですよ、独りで、倒れるほど呑んじゃ。持って帰られたいなら別ですけどね」

「持って帰ろうと、思ってたんですか?」

「まさか! と言いたいところだけれど、やっぱり男だからね、下心はありますよ」

 随分、ストレートに言う。

「あなた、いつもああやって独りで呑みに来てるんですか」

「そうですけど」

「僕はてっきり、あの彼と付き合ってるんだと思ってた。ほら、さっきの」

「え?」

「何度か、一緒に呑んでるのを見かけたから。それも仲良く、日本酒を」

 今時珍しい分厚いテレビから、けたたましい笑い声が流れてくる。

「あの店、あなたほど若い女性はめったに来ないから、目立つんですよ。僕みたいなサラリーマンは掃いて捨てるほど来るから、見分けはつかないだろうけど」

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

OTHER SNAPS