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白濁(二十九)

by 野原海明

 あれから恥ずかしくて呑みに行けていないのだけれど、東急で買い物をするとどうしても店の前を通ってしまう。

 日曜日。日暮れの早くなった商店街の煙草屋の前で一服しているのは高橋だった。私は買い物袋を下げて家に帰るところだった。

 目が合ってしまう。

 そのまま素通りをするのも変だと思って、道路を渡って近づき、声をかける。

「お久しぶりです」

「ああ、どうも」

 言いながら高橋は、うつむいて携帯灰皿に灰を落とした。咥えなおしてから顔を上げる。

「今日、休みなんですね」

 立ち飲み屋のある路地を指して言う。

「日曜、定休みたいです」

「そうなんだ、知らなかった」

 立ち去るタイミングを逃してしまった。私は不自然に、買い物袋を両手に提げたまま突っ立っていた。

「ここで煙草吸ってたら、会えるんじゃないかと思って」

 こともなげに高橋は言った。

「呑みに行きませんか? ほら、こないだ連れてってくれた、焼き鳥屋とか」

「私は……」

 なかなか言葉が出てこない。

「私は……、これから、彼が来るんで」

 これは嘘。

「彼? カレシ?」

 高橋は買い物袋を見ながら言った。

「そう」

「なんだ」

 煙草の火をもみ消した。

 急に後ろから、肩にポンッと手を置かれた。

「うあっ」

 高橋の目線は、私の頭ひとつ上にあった。

「おお、元気そうだな」

 背後から男の声が言った。

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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