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白濁(二十四)

by 野原海明

 「愛し合う」だなんて言うけれど、そんなふうに感じたことは一度もない。

 その手に触れられているとき、私は自分の体をただの物体のように思う。セックスドールと変わらない、女の体の形をした玩具。

 そして、坂井が見ているものも、私の体ではないのだろう。アダルトビデオのような夢物語。私の体をじわじわと痛めつけながら、坂井は平常心を失っていく。その言うなりになって、それらしい悲鳴を演じてみせる私は、残念だけれどその痛みを快楽に感じることはできない。

 そうだったらいいのに、と何度も思った。痛めつけられるままに、喜びを感じられたらいいのに。その快楽の中に溺れ、坂井も何もかも、見えなくなってしまえばいいのに。

 でも、私がいつも見ているのは、次第に歪んでいく坂井の顔だった。軽い暴力に自己陶酔していく、その顔。

 私は抑えつけられたり、縛り上げられたりしながらも、そうして溺れていく坂井の顔を見るのを楽しんでいた。私が小さく悲鳴を上げる度に荒くなるその息遣いを。

 壊れてしまえばいい。

 壊してしまいたい。

 私は夢想する。その身をひねって坂井の肩を蹴り飛ばし、冷たい床に押しつけて、自由を奪う様を。爪を立てて彼の体に幾筋もの傷をつける。短く切りそろえられた私の爪の間に、坂井の皮膚の一部が詰まっていく。深い引っかき傷は治りが悪いことを私は知っている。

 でも、そんなことはしない。

そんなことは、坂井はさせてくれないだろうから。その代わりに私は、坂井が内側から壊れていくのを楽しんでいるのだ。

 愛してるなんて言えなかった。男の形をした玩具。私にとっても、それは同じ事だったのだろう。

(つづく) 

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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