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白濁(二十一)

by 野原海明

 高橋はシャワーを浴びようとはしなかった。全裸のまま、布団の上で仰向けに横たわっている。棒切れみたいな、痩せて色白の体。やけに太いすね毛がよく目立つ。その目は天井に向けられていた。私は、白い腹に手を伸ばした。すべすべして、少し冷たい。呼吸はまだ荒く、手のひらに伝わる振動はせわしない。

 高橋は何も言わずに上半身を起こすと、私の唇にキスをした。これもまた、乾いたキスだった。コンクリートの無機質な壁。ちょうど、高橋が撮る写真のような。

 おもむろに枕元のカメラを手に取ると、裸の私に向けて何度かシャッターを切った。虫の鳴く低周波のような声と、時折通り過ぎる車の音に、カシャリ、カシャリと機械音がかぶさった。

「見せて」

「いや、ごめん。これは見せられない」

「けち」

 背を向けて寝てやった。

 翌朝は酷い二日酔いだった。シャワーを浴びながらも、酒臭い自分に嫌気が差した。

 それでも、今日は仕事に行かなくてはならない。

 高橋は裸にタオルケットだけ腹に掛けて眠っていた。台所の床に脱ぎ散らかされたズボンのポケットから、何か帯のようなものがはみ出していた。

 引っ張り出してみるとそれは、真っ黒いネクタイだった。よくよく見ればズボンも、学生服のように真っ黒だった。

 まだ高橋は目覚めない。テーブルの、酔っ払って買った缶ビールの脇に鍵を置き、郵便受けに入れるようにとメモを残して置いた。

 そのまま部屋を出る。まだ早朝だというのに陽射しはきつく、眩暈がした。駅までたどり着くとトイレに駆け込み、何度か吐いた。喉が火傷をしたみたいにひりひりと痛んだ。

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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