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白濁(二十五)

by 野原海明

 高橋修二からは、あれから一度も連絡はなかった。私からもメッセージをすることはない。ときどき、平凡な投稿がFacebookのタイムラインに流れてくる。ラーメンを食べただとか、娘を連れて海に行っただとか。

 思い出したようにお互いの投稿に「いいね」ボタンを押すけれど、もう立ち飲み屋にも姿を現さない。鎌倉で途中下車をするのはやめてしまったのだろうか。

 もしもう一度ばったり会ったら、私はまた高橋を連れて帰るだろうか。

 わからない。

 坂井の姿も、もうしばらく見ていなかった。SNSを嫌う坂井はFacebookの中にはいないし、共通の友達も一人もいない。

 もしこのまま、坂井が現れなくなったら、こんな関係があったことを証明する人は誰もいないのだ。

 長い夢を見ていたのかもしれない。坂井という男が、この部屋に通っていたという夢を。

 一人で酒場で飲んでいると、声を掛けられることは多い。街を歩いていてナンパをされることは滅多にないから新鮮だと思う。

 美里なら、「独りで呑みに行くなんて、男漁りしてるみたいであざとい」って言うだろうか。確かに、明らかに男漁りを目的にしているのがありありとわかる女もたくさんやってくる。仕事帰りのサラリーマンの間で、露出の多い服を着て、豪快に酔っ払うのだ。そしてその腰に、冗談みたいに回される手。

「日本酒なんですか? すごいですね」

 最初に掛けられる一言はみんなおんなじだ。すごいもんか、私はただ好きで呑んでいるだけなんだ。

 ああ、それにしても今日は呑みすぎてしまったかもしれない。褐色にくすんだ天井がゆっくりと揺れていた。

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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