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白濁(十五)

by 野原海明

 ギャラリーの入り口がわからなくて、何度か通り過ぎてしまった。住宅地の中に建つ無機質なビルの、わざと見つかりづらいように造ったみたいにみえる狭い階段を昇った先に、高橋修二の個展会場はあった。

「ああ、本当に来てくれたんですね」

 こぢんまりとした部屋の奥に、いつも酒場で見かけるよりも改まった格好をした高橋が立っていた。それは、着慣れない喪服を着崩しているように見えた。

「迷っちゃいました?」

「はい、少し」

「ゆっくり涼んでいってください」

 案内のポストカードの写真みたいに、暗い写真が並ぶ中、一枚だけくすんだ青空が写っているものがあった。公園だろうか。赤いランドセルを背負った背中。色の少ない写真の中で、その赤がやけに目をひいた。

「それ、僕の娘です」

 高橋が後ろから声を掛けた。

「お父さんだったんですね」

 ちゃかして言うと、

「意外でしょ?」

 と高橋も返してきた。

「辻堂に住んでて。月に一回だけ会いに行くんですよ。鎌倉に寄るのはその帰り。わざわざ乗り換えなくちゃいけないんだけれど、どうにもまっすぐ帰れなくて」

 首にはいつものカメラが下がっていた。

「じゃあ、ほんとうはそのカメラ、娘さんの写真でいっぱいなんでしょう?」

「ばれましたか。親バカです」

 おどけて答える。

「でもね、レンズ越しにしか正視できなくて。不思議なもんですね、自分と確かに似ている顔をしているんだけれど、自分の子どもっていう実感が無いんですよ」

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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