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白濁(十四)

by 野原海明

 ポストカードの写真はやけに暗かった。コンクリートの壁と、そこに這う錆びた金属の棒。それらは複雑に絡まって、中途半端な蜘蛛の巣のように見える。

 カメラマンの名前は、高橋修二。

「高橋さんっておっしゃるんですね」

「ああ、まだ名乗ってなかったですね。そうです。高橋です」

 男は目を細めた。

 私立の高校は、土曜にも未だ律儀に授業がある。でも、単位選択制だから、要領の良い生徒は土曜の授業は取らない。登校してくる生徒はまばらで、休日出勤のような気分になる。

 物理実験準備室付きの職員だった頃には、こんな天気の良い土曜には、倉庫の奥に放置されたソファーで居眠りをしていた。土曜日には実験も入らないし、出勤するだけでこれといってやることはない。

 事務室に移動してから、やたらと忙しくなった。派遣職員としてメインで任されている証明書の発行の仕事は、さすがに土曜日には求めてくる生徒は少ないから暇にはなる。でも、それを知ってか正規職員が自分の仕事を次々に振ってくるのだ。

「本来、正規職員がやらなきゃいけない仕事でしょう? 白石さん、何でも安請け合いしちゃだめだよ」

 と派遣の先輩は言うが、暇なのに仕事をしているふうを装うよりも、何か手を動かしていたほうが楽だと思う。

 渡された神Excelファイルを開き、芸術的にセルをつなぎ合わせながら、終業のチャイムが鳴るのを待っている。

 高橋修二の個展は表参道で開かれるらしい。ポストカードに記された会期は、わずか五日間だった。そうしたら行けるのは今日しかない。

 案内をもらった義理も感じていたけれど、それよりいくらか好奇心のほうが強かった。

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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