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白濁(十一)

by 野原海明

 結婚をゴールとしない恋は、いつしか単調なものになる。もう二人で日中にどこかへ出掛けることもなければ、最初の頃のように飲みに行くこともなくなっていた。ただ坂井は私の部屋に通って来て、もうひとつの自分の家のようにくつろいで帰っていく。それは、平安時代の通い婚を思い起こさせた。光源氏が紫の上を幼いうちにかっさらい、自分好みの女に育てあげ、そのくせ身分の高い他の女を正妻に迎えてしまうように、坂井もいつか他の女と結婚するのだろうか。

「結婚してみたいって、思ったことある?」

 寝そべる坂井の背中に訊いてみる。

「ないね」

 答えはすぐに返ってくる。

「でも、結婚していたことはあるよ」

「そうなの? したいと思ってなかったのに?」

「まあ、だまされたというか」

 寝返りを打ち、寝そべったまま私の顔を見上げた。

「一年くらいで別れちゃったけど」

「ふうん」

 私は、興味のない振りをして坂井の薄い唇をふさいだ。入り込んできた舌に軽く歯を立てる。テレビは、最近流行りの芸人がお決まりのギャグを披露している、ムードもへったくれもない音声を流し続けている。

 来るかどうかわからない男を待つよりも、来ないとはっきりわかっているほうがいい。私は土曜日だけ、一人で夜に出掛けるようになった。駅の脇にある防空壕みたいな小さな商店街に立ち飲み屋ができたのだ。それまで鎌倉で夜に呑める店は、ちょっと高級な小料理屋か、コース料理を出すイタリアンか、どこにでもあるようなチェーンの居酒屋くらいしか知らなかった。

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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