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白濁(七)

by 野原海明

 結婚をしたいわけじゃなかった。

 子供が欲しいわけでもないし。

 子供を産むつもりがないなら、結婚って何のためにするんだろう? って思ってた。

 好きな相手がいて、ときどき思い出したように会って性欲を充たす。

 それでいいんじゃないかと思ってた。

 でも、私はずるずると坂井に依存していった。一人でいるときには、「坂井が死んでしまったらどうしよう」と、それだけを考えていた。

 メールに返信が無いのはいつものこと。でも、何度も立て続けに電話をしてしまう。どうせ出ないとわかっているのに。

 決して、私のことを好きにならない男。

 坂井は、アダルトビデオみたいなハードな体位を好んだ。玩具のように扱われながら、でも私は、残念だけどマゾヒストにはなれないと思った。

 興奮の果てに壊れていく坂井を見ていたい。

 快楽よりも苦痛の多い行為の中で、歪む坂井の表情それだけが、私の血を沸き立たせる。

 物理準備室実験助手から、事務所に引き抜いてもらえてよかった。狭い準備室の中で坂井と机を並べて、どんな顔をしていたらいいかわからなくなっていた。

 事務所の仕事は、物理準備室よりももっとずっと単純だ。私立大学附属のこの高校では、先生たちの扱いは教員よりも研究者に近い。定期試験の問題や解答用紙を印刷するのは、事務所の派遣職員の仕事だった。

 一学年六〇〇人分のテストを印刷機にかけながら、坂井の歪んだ顔やうわずった声ばかり思い出していた。

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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