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白濁(十三)

by 野原海明

 白く濁ったそれは、飲み食いしたものによって味が変わるのだという。発泡酒ばかり飲んでいる坂井の体液はさらりと軽く、そして少し苦い。

 一度、苺を山ほど食べてみたらどうなるか試してみたことがある。スーパーで安売りになっていた苺を三パック買い込み、プリティ・ウーマンを気取って安物のシャンパンで流し込んだ。

 つんとした酸味は坂井が消化したそれなのか、私の舌先に残ったそれなのか、よくわからなかった。

 坂井はゴムを使わない。私の腹か背中か口内に放出する。飲み込むとき、喉が少しひりつく。喉の奥でまだぴちぴちと生きているのだ。白魚のおどり食いみたいに。生きたまま胃に到達して消化されるに違いない。

 済むと、なんの余韻もなくすぐにシャワーを浴びる。

「肌が弱くて」

 と言うのは嘘だと思っていたけれど、一度酷く酔っ払っていたときシャワーを浴びずに寝入り、翌朝私の体液がついた処だけ赤く腫れていた。自分が雑菌になったみたいで哀しかった。

「よくいらっしゃるんですね」

 立ち飲み屋で、同じ男にまた声を掛けられた。

「え? そうでもないですよ」

「そうですか? 僕が来るときにはいつもお会いするから」

  男は都内から通ってきているのだと言った。

「どうにもまっすぐに帰れなくて、つい寄ってしまうんですよ」

 と、はにかむ。

 今日も、日本酒の升の横に無造作にカメラが置かれていた。

「写真、撮ってらっしゃるんですか」

「ああ、これ? そうですね、趣味の延長みたいなものです」

 そう言いながら、足元に置いた黒い鞄を手探った。ポストカードサイズの案内を取り出して、カウンターに並べた。

「でもね、今度個展をすることになったんですよ」

(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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