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白濁(三)

by 野原海明

 友達と会う約束をするのをいつしかやめてしまった。坂井は、いつも突然に連絡してくる。

『今から行く』

 それが、今から何時間後なのかはさっぱりわからない。でも私は舞い上がってしまう。慌ててスーパーへ出掛けて行って、発泡酒のロング缶を六本と、坂井の好きそうなつまみの材料を買う。でも、夕食時になっても来ないことがほとんどだ。例えば、二十一時過ぎた頃にチャイムが鳴る。オートロックの向こうに、不機嫌な顔の坂井が立っている。悪びれもせず、

「ジムに行って来た」

 と言う。それなら、「今から行く」なんて言わなければいいのに。

 部屋に入ると同時にテレビを点ける。発泡酒とグラスを差し出すと、

「冷えが甘い」

 と文句を言う。

 ときには、缶を冷凍庫に入れるタイミングが早すぎて、シャーベット状の泡ばかりになってしまうこともある。

「まったく仕方がないな」

 と言いながら、口元は少し緩んでくる。笑顔にはまだ少し足らない。

 特に会話をするわけでもない。お笑い番組はそのうちに深夜番組になり、坂井が買ってきたAVになる。

 画面の向こう側もこちら側も同じようになって一日が終わる。私の腹の上で果てると、余韻もなくすぐさまシャワーを浴びた。

 それでも、坂井が来るのだけをいつも待っていた。退屈な意味のない授業に出続ける生徒たちのように、ただ無為に、坂井だけを待っていた。

 坂井が高校へ赴任して二ヶ月が経った頃に、たまたま校門を出る時間が同じになった日があった。先にすたすたと歩いていく坂井の背中を上石神井駅まで追いかけ、ホームに降りてから、まるで今気づいたかのように声を掛けた。そこから高田馬場までの間に居酒屋に誘い、初めて二人で飲みに行ったのだ。(つづく)

※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体等とは関係ありません。

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